#09 好きになってもいいかな?
「碧くんをもっと知りたい。碧くんともっと仲良くなりたい。でも、それが好きって感情かはわからない。ただ、一つだけ言えることがある……」
私が戸惑いながら答えると、結愛ちゃんは不思議そうに私の顔をのぞき込んだ。
「私は恋をするのがこわい。次の一歩を踏み出す勇気がないんだよ」
結愛ちゃんは私の言葉に少しだけ驚いた顔で言った。
「それが陽葵の正直な気持ちなんだね」
「うん、今はそう……」
結愛ちゃんは、まっすぐな瞳で私を見つめてくる。結愛ちゃんが何を考えているかわからなかった。でも、結愛ちゃんの表情を見ていると言葉が抑えつけられて、何も言えなくなってしまった。
数日後、私と碧くんは謎解きデートに参加した。
「あっ、あれ? この石畳。ここだけ色が違うね? さっきの暗号表と組み合わせたら解けないかな」
「すごい! よく見つけられたな。次は『城へ向かえ!』だって」
私たちペアは順調に謎を解いていった。得意分野はそれぞれ違うけれど、お互いの短所を、お互いの長所で補えるのは、相性1%だからこその良さだと思う。

Illustrated by 眩しい
「よし、最後まで解けたな! これでシェアハウスに戻れば……」
「さすが、碧くん! 暗号なんて私は難しくて解けな……って、あれ? どうしたの?」
碧くんは急に何かに気付いたように困った顔をした。
ようやく謎が解けたっていうのに、何があったんだろう。
「あっ、いや。なんでもない……」
碧くんは、ごまかそうとするけど、どう見てもなんでもない顔じゃなかった。
「困ったことがあるなら教えて」
私が言うと碧くんは渋々と言った感じで口を開いた。
「ちょっと落とし物……」
聞けば、大事なお守りを謎解きの途中に落としたみたいだった。
「シェアハウスに戻らないと。番組に影響が……」
碧くんは番組を気にしている。デートの後は、全カップルが揃ったところで謎解きの答え合わせをすることになっていて、私たちがシェアハウスに戻らないと番組が進行しない。でも、だからって、お守りが見つからないまま番組に参加なんてできない。なにより碧くんの辛そうな顔は見たくない。
「探しに行こうよ! 遅れても、スタッフさんたちに理由を言って謝ればなんとかなるかもしれない。でも、大事なお守りは、今、諦めたら二度と戻ってこないよ!」
結愛ちゃんみたいにルールから外れても、自分の気持ちに正直に行動したかった。私の正直な気持ちは碧くんを助けたい。
私は碧くんを説得する形でお守りを探しはじめた。
「これまで通った道のどこかで落としたのかも。順番に戻ってみよう」
私たちは、来た道を戻って碧くんのお守りを探すことにした。
でもなかなか見つからない。
どこに行ったんだろう。私たちが諦めかけた時だった……。
「あっ! ……これじゃない?」
ベンチの下でお守りを見つけた。
「本当だ! よく見つけたな」
碧くんの顔が一気に晴れやかになった。碧くんはすぐにお守りを手に取る。
「このお守りは、俺が生まれた時に、おばあちゃんがくれて、ずっと大切にしてたんだ。……本当にありがとう」
碧くんは、少しだけ目に涙を溜めているように見えた。よっぽど、大事なお守りだったんだね。
お守りを見つけた私たちは、急いでシェアハウスに戻って撮影に参加した。
スタッフさんに遅れた事情を話し、きちんと謝ってことなきを得た。そして、その日の夜だった。
「なに? 急に話って……」
私は碧くんにテラスに呼び出された。
碧くんは真剣な表情で言った。
「なあ、陽葵のこと、好きになってもいいかな?」
私の頭の中は一気に真っ白になった。