#03 失敗がこわい
『逆境ラブマッチ~相性1%の恋~』では、デートやミッションを重ねて相性1%の相手と愛を育んでいく。
「ミッションは『カップル対抗料理対決』だってさ」
碧くんは、カップルごとに一台渡されているタブレットを開きながら言った。
「優勝したカップルは『海の見えるスパで優雅な一時を』だって」
「スパ! 素敵だね。リラックスしたいな~」
参加理由を言わなくて済んだことにほっとした。
私が『逆境ラブマッチ』に参加した理由は、相性1%ならたとえ失敗しても傷つかないからだ。でも、そんな後ろ向きな理由で参加したなんて、出会ってすぐの彼には言えなかった。
「何を作ろうかな? せっかくだから勝負にも勝ちたいしな。陽葵は何がいい?」
「う~ん、何がいいかな?」
碧くんとの会話は自然と料理対決に移っている。
「そうだ! お互いに作りたいものをプレゼンしないか?」
碧くんが提案してきた。
確かに、まだお互いの好みも知らない段階で何を作るか話し合うのは、すごく難しい気がした。だったら、プレゼンした方がお互いを知れる。
「よし! じゃあ、俺からいくね。俺はラーメン! 週に3回は食べてる! 湯気が立ち上るスープに、つやつやした麺……それをズルッとすすると、スープの旨みが一気に口の中に広がって幸せな気持ちになれるんだ。それをみんなにも味わってほしいんだよ!」
まずは碧くんからプレゼンがはじまった。
「オススメは濃厚な豚骨スープに太麺。トッピングにはとろけるチャーシューと半熟卵。想像しただけでよだれが出る! 食べるたびに心も体も温まる気がして、やめられないんだよね。もちろん料理対決には映えないから異論は認める!」
碧くんのプレゼンは熱を帯びていた。私も思わずラーメンが食べたくなっちゃう。
「ラーメンでいいよ」って言いそうになっちゃったけど、碧くんが私のプレゼンを聞きたそうにしているのを見て、私も自分の作りたいものについて話しはじめた。

Illustrated by てんてこ
「私はエスニックかな。グリーンカレーなんかどう? 色鮮やかで、見た目も良いから映像映えするし。案外簡単に作れて、不器用な私でも失敗しないんだ。家で何回も作ってるから安心かなって」
一通り話し終えたところで、碧くんの顔を見ると、碧くんは不思議そうに私を見てきた。
「それって、失敗しないから作りたいってこと?」
「そっ、それは……そうかも……。ごめん……変だよね?」
「いや、いいんだよ。別に謝ることなんかないよ。ただ、作りたい理由が想像していたのとちょっと違うなって」
碧くんは、寂しそうな表情を見せた。