#01 恋愛リアリティショー
大きく息を吸って、深呼吸をする。
「恋がはじまる……」
私は震える手で、重い門を押し開けた――。
高級住宅街の一画にあるシェアハウス。ここで私たちの共同生活がはじまる。
門をくぐり、扉の前に立つ。
扉の向こうからは、楽しそうな笑い声が聞こえる。
胸が一気に高鳴った。
「よし、行こう!」
私は小さくつぶやいて、ドアノブをそっとまわす。

Illustrated by tabi
「こんにちは……」
私が恐る恐る挨拶をしながら入ると、談笑していた声がぴたっとやんで、女性たちがいっせいにこちらを振り向いた。
参加者の煌びやかなオーラに圧倒される。
「あの……えっと……」
しどろもどろになった私の元へ、一人の女性が近づいてきた。
「はじめまして! ようこそシェアハウスへ!」
「えっ、あ……」
「私は美崎結愛。結愛って呼んでね。よろしく」
話しかけてくれたのは、笑顔が明るくて、背が高くてスタイルが良いモデルさんみたいな女性だった。
「あっ、あの……私は小鳥遊陽葵です。よろしくお願いします」
ぎこちなく挨拶すると、彼女はクスッと笑った。
「敬語はいいよ。これから共同生活する仲間なわけだし」
「あっ、はい」
「また敬語!」
「あっ、ごめん……!」
「緊張してる?」
「うん……すごく……」
緊張する理由はわかってる。
それは、これまで、ほとんど恋愛をしたことがないからだ。
そんな私が、よりによって恋愛リアリティショーに参加するなんて……。
「結愛……ちゃんは、平気そうに見えるけど……緊張しないの?」
「緊張もするけど、期待の方が大きいかな。相性1%の相手と恋愛って、なんかワクワクするじゃん」
結愛ちゃんの言葉にウソはなさそうだ。
私たちが参加する『逆境ラブマッチ〜相性1%の恋〜』は、新感覚の恋愛リアリティショーだ。参加希望者の性格や価値観、恋愛経験などを番組独自のAIシステムが分析し、ランダムにカップルを成立させて各カップルの相性を数値化。相性1%の相手が見つかった人のみがオーディションを経て参加できる。今までにない新しいシステムに、ネットやSNSではかなり話題になっている。
「相性1%の相手って、もうAIで決められてるんだよね?」
私は結愛ちゃんに尋ねた。
「うん、みたいだね。楽しみだな~。私は背が高くて、笑顔が素敵な人がいいな! 陽葵は?」
「う~ん……。私は、あんまり派手な人はタイプじゃないから、目立たなくても優しくておだやかな人がいいかな」
「おだやかな人は、確かに陽葵に合いそう! お互いにいい人だといいね~」
結愛ちゃんが言い終わると同時に、参加者の一人が壁掛け時計を見ながら言った。
「女性メンバーはみんな揃ったみたいだね。そろそろ男性メンバーが来る時間じゃないかな?」
私の胸がドキリと鳴った。
どうしよう。まだ心の準備ができていない。
その瞬間、シェアハウスの扉が開かれた。
一人の男性が私の元に近づいてくる。
「君が、小鳥遊陽葵さん?」
私は緊張のあまり、頷くことしかできなかった。
「じゃあ、君が俺の相手だね。よろしくね」
私に声をかけてくれたのは、背が高くて、笑顔が素敵な人だった。